北海道帯広市の事業創発拠点「LAND」

  1. ホーム
  2. 発見する!
465

わくっとニッタ株式会社

山口 聡士さん

#69「国産メープルシロップの事業化に向けた挑戦」

十勝の事業創発につながる企業の取り組みを、LANDスタッフが取材し掲載する「LANDSCAPE」!

今回は、わくっとニッタ株式会社代表取締役社長の山口聡士さんにお話を伺いました。親会社のニッタ株式会社が十勝に保有する自然資源を活用する事業の記念すべき第一弾として、国産メープルシロップの製造・販売に乗り出しました。

日本初輸入のカナダ産設備を導入したメープルシロップ工場で、国産メープルシロップ事業の可能性や林業の未来、今後の展望に至るまで、存分に語っていただきました。

(聞き手:帯広市経済部)

わくっとニッタ株式会社 山口 聡士さん

プロフィール
山口 聡士さん(やまぐち さとし) 代表取締役

1985年生まれ。兵庫県出身。京都工芸繊維大学大学院卒業後、ニッタ株式会社入社。事業開発センターで新素材や新製品の研究開発、新事業探索チームで新事業の仮説検証を経て、2025年1月に北海道の自然資源を活用した新事業の企画・提案・運営を行うわくっとニッタ株式会社の設立に伴い、同社の代表取締役に就任。

国内初のメープルシロップ工場ができるまで


――まずは、わくっとニッタ社の基本的な事業内容について、お聞かせください。

(山口さん)弊社は、親会社のニッタ株式会社から誕生した新しい森づくりの会社です。北海道のかけがえのない森林資源を育て維持しながら、持続可能な未来を実現する事を目的として、自然資源を有効活用する新事業の企画・提案・運営を行っています。

 その第一弾として、十勝管内の広大な社有林(約6,700ha)を活用した「国産メープルシロップ」の製造・販売を2025年4月より開始しました

販売開始した「MOMIJI SYRUP」


――会社の設立までには、どのような経緯があったのでしょうか。

(山口さん)2022年に社内公募で「新事業探索チーム」という組織が立ち上がり、新事業についてのアイデアが練られることになりました。当時、会社からは「ロボット、バイオテクノロジーなど今後市場成長が見込まれる8業種」と「当社が保有している遊休資産の活用」という2つのテーマが与えられていました。

 計60ほどのアイデアが出されましたが、最後まで残ったのがこの「国産メープルシロップ」事業でした。製品の試作や市場調査を含めた事業化の可能性の検証を何度も行い、その結果、確かな手応えを得ることができ、新会社「わくっとニッタ株式会社」を設立するに至りました。

――実際にメープルシロップ事業を始めるまで、どのような過程があったのでしょうか。

(山口さん)2023年6月から、山林と市場、技術の調査を始めました。メープルシロップの原材料である樹液は、樹齢20年以上のカエデ類からのみ採取ができますが、弊社が保有している森林には、その条件を満たすカエデ類(ヤマモミジとイタヤカエデ)が数多く自生していることがわかりました。

 2024年1月に、メープルシロップの一大産地であるカナダの「dominion & grimm(ドミニオンアンドグリム)社」製の試作機を輸入して、試作を行いました。4月に市場調査などを経て事業計画策定、2024年初夏よりカエデ林の整備や工場建設、カナダ製量産設備を導入して、2025年2月から本格的に製造を開始しました。

 大量生産が可能な製造機器をカナダから輸入するのは、日本でも弊社が初となります。ドミニオンアンドグリム社としても海外に輸出するのは初めてということでしたが、日本でのメープルシロップ産業の創出を歓迎していただき、前向きにご協力いただきました。

――メープルシロップ製造工程について、詳しく教えて頂けますか。

(山口さん)工場に隣接する社有林のうち、今回整備した約20ヘクタールには、2,000本ほどのカエデが自生しています。そのカエデの木、1本1本に深さ4センチメートルほどの小さな穴を開け、細いチューブを刺します。このチューブが樹液の通り道になります。

 森全体に張り巡らされた真空のチューブラインには計算された勾配がつけられていて、重力によって自動的に工場に集約されるというしくみになっています。

 工場に集められた樹液はタンクに貯留され、濃縮の工程に入ります。まずは膜濃縮機で濃縮液と真水に分けられ、糖度が1.5%から15%になります。その次に、エバポレーター(加熱濃縮機)で加熱を続けて水分を飛ばし、糖度66%にまで濃縮されると自動的にバルブが作動してメープルシロップが排出されます。その後は、ビンへの充填やラベル貼付けなどのボトリングの行程を経て、製品が完成します。

樹液採取のチューブライン



国産メープルシロップ事業が日本の林業を変える


――改めて、メープルシロップ製造に着目した理由やそのメリットについて教えてください。

(山口さん)ニッタグループでは、1906年の拠点設立以来、林業を生業として今日まで事業を続けています。その上、6,700ヘクタールの広大な森林を保有していることから、維持管理のノウハウとリソースを併せ持っているということが最大の強みでもあります。

 しかし、日本全体を通してみると、林業従事者は1980年に14.6万人だったものが、2020年には4.4万人と1/3まで減少しているという現状があります。

 その一因としては「安定的な経営の難しさ」が挙げられます。北海道で木材として売買されるカラマツなどは、植林から30年から50年ほど経って、初めて売上=収入を得ることができます。この事業サイクルでは、市場の需要に合わせて毎年の供給量を自由に増減させることは困難です。

 一方、メープルシロップ事業は、市場の需要に合わせて供給量の調整が可能であり、木の成長と並行して植林により樹木を増やすことで、計画的な増産が可能です。実際に弊社でも、2024年から毎年1万本のカエデの植林を始めました。毎年同じ木から樹液がとれ、売上=収入も毎年安定的に得られることから、雇用拡大にも繋げられる可能性があります。

――メープルシロップ事業が、林業分野での雇用の創出という役割も果たすことになるんですね。

(山口さん)実際に弊社では、北海道ニッタの林業チームから1名がメープルシロップ事業に専従することになり、7年ぶりに新卒採用を再開しました。今後も事業が拡大していけば、雇用の機会が増えることになり、結果的に優秀な若い人材が地元に残る環境を整えていけると思っています。

 さらにメープルシロップの原材料である樹液は、毎年2月から3月の間の約4週間しか採取できないので、製造期間もこの4週間ほどということになります。一般的に林業は、冬場は閑散期で業務量が減少する期間となり、各社その間の労働力の利用に苦慮しているのが実情です。メープルシロップ事業は、その期間の余剰労働力を活用することができ、林業全体の採算性も大きく改善可能と考えています。

樹液の加熱濃縮の様子


――木を伐採することなく毎年安定的に生産ができるという点では、今の時代性にも見合った事業といえますね。

(山口さん)カエデ類の寿命は100年以上あるので、森林の維持・管理も生態系を壊すことなく100年単位で実施可能となります。環境保全と共にCO2削減効果も大きい持続可能な事業だと期待しています。樹液を濃縮する工程で使用されるエバポレーター(加熱濃縮機)の燃料に、間伐材の薪を使用していることも、環境に配慮した点の一つです。

――十勝という場所も、メープルシロップ事業に置いて優位性があるのでしょうか。

(山口さん)十勝は、メープルシロップの一大産地であるカナダのケベック州と似た点が非常に多くあります。まずは緯度が同じであること。次に、カナダのケベック州は北米大陸の東地域に存在していますが、十勝地方も北海道の東に位置しており気候風土が類似しています。

 実際、日本全国にカエデ類が自生している森林は膨大に存在していますが、高品質で甘い樹液がとれるのは、冬の間に氷点下の寒さが一定期間続く地域に育つ樹木のみです。それは、樹木自身が生命を維持する為に樹液糖度を高めて、凍結から身を守るためだと言われています。

 ですから、冬の間に氷点下の寒さが一定期間続く地域以外のカエデ類樹木からは、高品質な樹液は採取できません。そういった理由からも、北海道内でも特に十勝地方が優位であるといえます。


技術はすべてオープンソースに。日本のメープルシロップが海外で認知される日まで


――今回、私たちの他にもメディア取材が入っていましたが、撮影の制限も特にありませんでした。情報をオープンすることにも、何か特別な思いがあるのでしょうか。

(山口さん)北海道全体でメープルシロップ事業に取り組む仲間を増やしたいと考えています。そして、現在シェア1%もない国産メープルシロップ市場を成長させ、世界に輸出される一つのブランドとして認知させることが目標です。このために、われわれがメープルシロップの事業としての経済性を示し、カナダから得たカエデ林の維持管理方法やメープルシロップ製造設備の運用方法など、あらゆるノウハウを参入希望の企業・自治体等に伝えていきます。

 メープルシロップ事業の拡大が、山林を持続的に維持管理して豊かな自然を育てる仕組みとなり、そこに暮らす人も豊かになる、そんな未来を描いています。

――ありがとうございました。最後に、十勝の皆さんにメッセージをお願いします。

(山口さん)今後、メープルシロップ事業の拡大はもちろんのこと、北海道の自然資源や知見を活用したさらなる六次産業化への挑戦を続けて参ります。我々の事業に興味をお持ちの方は、気軽にお声がけください。


編集後記
新事業探索にあたり多くのアイデアを生み出しては市場調査やヒアリング、実証実験など試行錯誤を繰り返し、国産メープルシロップ事業誕生の背景には多くの苦労があることを伺いました。
遊休資産の活用により安定収入と環境保全の両立を図るこのプロジェクトが、十勝にさらなる活力をもたらすことを期待しています。
(帯広市経済部)


LINK

わくっとニッタ株式会社ウェブサイト

わくっとニッタ株式会社Instagram


協力

帯広市経済部経済企画課、フードバレーとかち推進協議会


お問合せ

この記事に関するお問合せはLANDまでお気軽にどうぞ!


関連記事

↑ページ先頭へ