北海道帯広市の事業創発拠点「LAND」

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十勝の事業創発につながる事業の取り組みを、LANDスタッフが取材し掲載する「LANDSCAPE」!
今回は、第62回伊勢神宮式年遷宮にて副棟梁として御殿の造営にあたった後、帯広にUターンし、建築設計事務所株式会社おかげさまを設立した菅原さんにお話を伺いました。(聞き手:LAND植田)

株式会社おかげさま 菅原 雅重さん

プロフィール
菅原 雅重さん(すがわら まさしげ) 代表取締役

1975 年 仙台生まれ、帯広育ち。順天堂大学卒業後、風基建設入社。同年早稲田大学専門学校入学。社寺建築を専門に学ぶため、京都社寺建築・細見工務所入所。その後第 62 回伊勢神宮式年遷宮に参加、副棟梁として御殿の造営にあたる。一級建築士取得後、象設計集団入所。2016 年、株式会社おかげさま設立。

宮大工として十勝にUターン、日本最北端の宮大工に


――菅原さんのこれまでの道のりをお聞かせいただけますか。

(菅原さん)11歳から高校卒業まで帯広で暮らしていまして、その後千葉の順天堂大学へ進学しました。学生時代、進路を模索していたなか、伊豆諸島の御蔵島でイルカを撮影するカメラマンのアシスタントもしているうちに、自然にあるものに実際に手で触れて命を吹き込む仕事をしたいなと思い始めたんですね。
その後、社寺や民家など、伝統建築の修復・調査研究から現代的な木造建築までを手掛けていた大工の田中文男さんの著書『現代棟梁 田中文男』に出会い感銘を受け、大工の道へ進むことを決意しました。

それから1999年、田中文男さんの主宰する現・風基建設へ入社し、同時に早稲田大学専門学校(夜間)で建築を学び始めました。社寺建築や古民家の修復に携わりながら、夜は建築の技術を学ぶうちに宮大工への道を志すようになりました。
やがて、京都の社寺建築を専門的に手掛ける「細見工務所」の存在を知り、宮大工としての技術を磨くために弟子入りし、京都の貴船神社、籠神社、大徳寺といった歴史的な社寺建築の建設・修復に関わりました。その中で、宮大工という仕事をあらためて掘り下げたとき、「建物だけでなくコミュニティや地域の場づくりに関わっている」という、もうひとつの役割に気づきました。その後、伊勢神宮の式年遷宮(2005~2013年)に携わることになりました。

――伊勢神宮の式年遷宮では、副棟梁をお勤めになったんですよね。そこまでキャリアを積んだ業界を離れることに抵抗はなかったのでしょうか。

(菅原さん)伊勢神宮の式年遷宮で6年間副棟梁を務めた後、大阪にある社寺建築で知られる老舗の金剛組にも面接に行きましたが、自分にとってこれ以上本州のキャリアを積むのも何か違うなという感じがして、そこでやっぱり帯広に帰ろうと思ったんです。ですから抵抗は全くありませんでした。

――ーー宮大工は特殊な仕事だと思いますが、Uターンする際に帯広に帰って仕事があるかなど心配はありませんでしたか。

(菅原さん)十勝や帯広にもお寺や神社がもちろんありますが、これまでは修理等は本州から宮大工を呼んでいたみたいですね。Uターン後、神社さんなどに一通りご挨拶に行きまして、ありがたいことに帯廣神社さんに声をかけていただき、比較的大きな仕事に関わらせていただきました。また、その仕事を受けている最中に、「うちも見てほしい」「ちょっと直せないか」という声がかかり、いくつも仕事をさせていただきましたね。
先日も、数年前の台風で倒壊してしまった中札内栄神社の社殿の修復の依頼をいただき工事が完了したところです。
最初は一人で始めた会社ですが、ありがたいことに一緒に働きたいと来てくれる方がおり、今はスタッフも7名になりました。

――宮大工というと、お寺や神社に関わる仕事しか依頼できないのではないかという気になりますが、菅原さんの場合はいかがですか。

(菅原さん)もちろん神社仏閣の仕事が中心ではありますが、依頼があれば何でもやりますよ。個人向けの神棚もけっこう作りましたしね。
あとは、たとえば、「うちに倒れた木があるんだけど、これでテーブルを作ってくれないか」と農家さんから持ち込まれたこともあるんです。私は宮大工ですけど、自分の技術を生かして、地域の役に立てたいという気持ちがあるので、製材機を導入し一枚板のテーブルセットを制作しました。

他には、私は一級建築士でもあるので、住宅や店舗を建てたりもしています。たとえば、音更町のパン屋さん「toi」さんの店舗と、店主の家は私が建てました。その家は、もともとあった古い牛舎を解体し、その記憶を残した家を建てたいというオーダーがあり、それに応えるような家づくりを行いました。牛舎の古材を可能な限り手を加えずに再利用できないかと考え、古材に残るかつての職人さんの仕事や、刃物の跡なども図面に合わせて安易に切り取らず、屋根の構造に用いました。一般的に、屋根の構造にはサイズのそろった木材を一定間隔で組みますが、この時は同じものがない古材の強度を逐一確認しながら構造計算して、一見無造作に見える屋根裏の意匠が生まれるように工夫しました。

――菅原さんからすると、一般の家や店舗を建てる時とお寺や神社を建てる時では何が違いますか。

(菅原さん)ひとことで言うのは難しいですが、家や店舗は依頼主(クライアント)のためを一番に考えて請け負うというのがありますが、神社仏閣を建てる事はある意味、その地域・場所のシンボルになるようなものを作ることだと思っています。ですので、その時だけでなく、次の世代に残っていくことを考えてつくるようにしていますね。

――十勝には旧双葉幼稚園のような重要文化財があります。宮大工として文化財の修復という仕事もされるのでしょうか。

(菅原さん)私は2017年に日本伝統技術保存会主催の伝統建築棟梁に認定されましたが、この認定を受けているのは実は北海道では私だけなんです。重要文化財の修理に携わることができるのは、認定を受けた伝統建築棟梁だけですから、私が携わる可能性もあるかもしれません。

――北海道で唯一ということですが、その資格を取得するのはどのくらい難しいのでしょうか。

(菅原さん)日本伝統技術保存会という団体の研修を受けて試験を受けるのですが、資格は初級、中級、棟梁の3段階。ただし、それ以前に重要文化財を扱うことのできる職場にいなければ、そもそも資格取得のための受験ができないので、資格取得は容易ではないといえるかもしれないですね。

株式会社おかげさま、その向かう先とは


――これから先、菅原さんの事業が進んでいく方向性や、新たな構想などあれば教えてください。

(菅原さん)日本最北端の宮大工として、神社仏閣の仕事はもちろんメインで続けていきます。そのうえで新たな構想としては、素材を活かしたものづくりに取り組んでいきたいと思っています。
たとえば床板を作ろうという時、木の使いやすいところだけ使い、曲がっている部分など真っ直ぐに取れない部分は捨ててしまうのが一般的なんです。そうではなく、曲がっている部分も含めて、木の形に合わせてデザインしようと考えているのです。こんなこと考えるのは、世界中で私だけかもしれません(笑)。


――フランスの展示会に参加されたというお話をうかがいましたが。

(菅原さん)2022年11月に、「EQUIPHOTEL 2022 エキップ・ホテル・パリ」という展示会があり、参加しました。
展示会には建築関係の人やホテルのオーナーなどがたくさん訪れ、なかなか反響がよかったですね。その時に、パリに住むシェフで、日本人として初めて二つ星を獲得した帯広出身の佐藤伸一さん(パッサージュ53)が関心を示してくださり、レストランで使う木製のお盆(トレー)の依頼をいただきました。今はトリュフを入れる木製トリュフケースのオーダーを受け、絶賛製作中です。

――十勝の地域の事業者と連携していく予定はありますか。

(菅原さん)地域の事業者と連携した取り組みも色々進めている所で、既に実現したものとしては、チーズ工房と連携して十勝の木材を使ったチーズの型板や、パン工房と連携してパンをこねる桶などは実際に作っています。地域の食を作る際に地域の素材を使った道具が使われることでその土地ならではの価値が高まっていくのではないかと思います。
木材以外にも地域の素材を活かすとすれば、例えば十勝の小麦を使った小麦葺きの屋根や、十勝川流域の火山灰の中に埋もれていた1000年前の樹木「神代楡(じんだいにれ)」を素材に用いるなど、試してみたいことはたくさんあります。

また、東京大学・はこだて未来大学と共同研究も進めていて、規矩術(きくじゅつ)※を使いこなす宮大工の仕事を、3Dでわかりやすく技術伝承するためのアプリ制作の共同研究にも協力しています。

※規矩術(きくじゅつ)とは。
指金(さしがね)や直定規などを使って、あらゆる角度を正確に出す木造大工の技。

――宮大工の高い技術が地域の価値を支えていくのは素晴らしいですね。もっとたくさんの方におかげさまの理念や仕事が伝わっていくと良いと思います。

(菅原さん)先ほどテーブルセットを作った話をしましたが、事務所で使っている引き出しや棚なども自作していますし、子ども用の椅子も作りたいと思っていて、私たちの仕事を地域の人たちに知ってもらえるように、将来的には自社のプロダクトを集めたショールーム機能を持つ場所をつくることも考えています。
これまでお話ししたすべてが、たくさんの方々のおかげで取り組めている仕事です。決して偉くならないように、それを忘れないように、初心を忘れないように、という社名の意味をいつも心に刻んで、これからも取り組んでいきたいですね。



編集後記
宮大工の技術を活かして、さまざまな建築や木製製品を手掛ける菅原さん。インタビューの中でも菅原さんの仕事に対する真摯な姿勢や大切にされているものを感じ取ることができました。今後十勝にUターンやIターンをする方に対して「十勝では特に手に職というか、何か専門技術がある人材が活躍できるチャンスがあると思いますよ」と、エールを送ってくださいました。宮大工ならではのアイデアで今後も異業種コラボを積極的に行っていく菅原さんにLANDは注目していきたいと思います。

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おかげさまホームページ

協力

帯広市経済部経済企画課、帯広市経済部商業労働課、フードバレーとかち推進協議会


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